消えゆくあなたへ

彼女のことは初のメインヒロインを務めた作品の頃から知っている。

当時、声オタが槍玉に挙げていた棒演技に関しては筆者もそう思っていたが、

声はキャラクターに合っていたので味わいのある棒として楽しめていたし

経験を積んで結局は演技も上達して期待の新人と言えるポジションにはいたのだろう。

しかし何作かメインキャラを務めた後に全く見かけなくなってしまった。

それはただ筆者の視覚から消えただけであって、筆者の知らない領域で彼女はそれなりに活躍してるものだと思っていた。

だが彼女の最近の消息を知ってしまい衝撃を受けた。

自らを毀損するような人間は助けようがない。

それは医者が必要とされるレベルなのである。

 

筆者は現在に至るまでの彼女の事情を知らないし、

ここで心配したり救済の手立てを考えたとしても薄っぺらいものになりそうだ。

批判ではなく彼女から引き出した教訓、それを他人と共有することでもって

せめて彼女への敬意の証とさせてもらいたい。

 

既に消されてしまったが彼女の肉声で伝わったのは、自分を細分化する危険性だ。

彼女は本当に自分の評価や評判を病的に気にしている。

現代の即時的なSNSは彼女にとって致命的で、短期間というよりリアルタイムでの他者評価に敏感になりすぎている。

努力の成果は時間が経ってから現れるもので、短い期間の評価など思い切って無視してもいいくらいである。

区切られた期間が短すぎると方針が立てられないし、その場限りの対処では成長出来ない。

これが自分の時間の細分化の弊害である。

 

SNSは彼女には相性が最悪で、簡単に繋がったオタクとやり取りしているのは悪夢でしかない。

時にエゴサをし、時に直接オタクからの反応に呼応して消耗する。

最近見かけただけでもこんな調子なので、これまでの知らない間に数え切れないくらい同様なことがあったはずで、

もうそれは修復不可能な傷を彼女に残したのだろう。

彼女が相手にすべきはそんなオタクではなく、長期的に友好関係が築ける人たちであったはずだ。

ネットのせいで広域でありながら直接関係が持てるように錯覚するのだが、

実は偏重化した範囲で刹那的なやり取りしか出来ないのがSNSだ。

これが人間関係の細分化の弊害である。

 

彼女は自分を支えてくれたファンにも侮蔑する発言をしてしまっている。

かと思えば後からファンを求めるような発言をする。

どうしてこんな矛盾をしてしまうのかと言うと、思考が出来なくなっているからである。

前後を考えず今の自分の意思に従ったり、他人にすぐさま反応して場当たり的な振る舞いをしてしまう。

本来、人間は入力を貯めてバリエーションのある出力が出来る生物なのである。

与えられた作用に従いそのまま反作用をするのは動物なのである。

これが思考の細分化の弊害である。

 

では細かい事に目を背けるべきかと言われるとそれは違う。

区切られた中での評価や関心、そして注力こそ成果が上がりやすいものなのである。

バランスは求められるのであり、一方に偏すると彼女と同じ轍を踏むことになるのだろう。