アニガサキのフォーマットが適用された異世界もの、そう言っても差し支えない構造なのだが
尋常では無い細部の作り込みと溢れる郷土讃歌のテーマがこの作品に個性を持たせている。
後の感動に繋がる破片を取りこぼさないように努めた視聴者は、作品の真価に触れられるだろう。
人生に行き詰まったヨハネにお金を無心された母親の言葉は印象深い。
娘の人生の成功どうこうより、まずは誕生日を祝うのである。
そしてトカイの生活で無理して気を張っているヨハネを気遣う。
ヨハネ、大事なのは何処にいるかじゃないわ。
誰と何をするか、よ。
母親からは自宅の窓から人生の目標と思しき星が見えているのに対し、
ヨハネのいるトカイでは街の光のせいで星が見えない演出も効いている。
「あなたが生まれた場所」と「あなたを知っていて共に夢を叶える人たち」がいるのは故郷だと、
母親はヨハネに示唆を与えているのである。
それはやがて物語で答え合わせをされる故郷のテーマの問いかけでもある。
「ただいま」を言えないヨハネにとっては生まれ故郷も異邦の地であり、
見かけた幼馴染のハナマルも昔の友達でしか無かった。
帰省直後のヨハネの言動を見ると、懐かしさだけを理由に
土地や人に愛着を持たせようとしない制作者のポリシーを感じる。
課題を乗り越えるにはもう一段階ヨハネに手順を踏ませたいのだ。
風で飛んできた店のチラシをハナマルに後で返そうとしたヨハネへの言葉。
後なんかあるのかな…。
建前としては再起には何度もチャンスがあると言えるが、本当は時間的な制約があって
ヨハネにとって逃してはならない機会はこの帰省の時だということだろう。
異変が起きた街を見捨てようとするヨハネに投げかけた言葉。
何も無いからどうなったっていい…、か。
去った人、そしてもしかしたら住んでいる人たちにとっても
過去だけが堆積している不毛の地、それが故郷だと寂寥混じりの呟きだ。
絶対に他人に代替されない故郷で過ごした思い出と記憶が打ち捨てられているのである。
だからこそ故郷が再生されるには、人々がそこで生きてきた証を今に繋げる必要があるのだ。
それが分かっているからライラプスはヨハネを森の切り株に案内したのであり、
そこで再会したハナマルの励ましの言葉は彼女にとって決定的となった。
マル、聴きたい。
ヨハネちゃんの歌を。
今、この場所で。
幼い頃自由気ままに楽しく歌っていたことを覚えてくれていて、しかも思いかけずも夢を与えていたハナマルとの関係を知った。
彼女を通して過去の自分と邂逅し、今に繋がる自分を自覚したヨハネは自信を取り戻す。
TVアニメ『幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-』 第1話挿入歌「Far far away」
https://youtube.com/watch?v=7Hli9vemRMk
頭のお団子を蕾に見立て、それに花弁を施した意匠は
言うまでもなく花開こうとする彼女の姿である。
無垢の純白に、成長の兆しとなる裾の淡緑からなるシンプルな衣装は
幼き日のヨハネのイメージだろう。
背景も相俟って開花しようとするヨハネを高らかに歌詞が綴る。
ヨハネの失われずにいた純真が、新たな変化を受け入れていく様を描いた傑作MVとなっている。
故郷の最初の友達となったハナマルから「お帰り」と言ってもらい、
ようやく「ただいま」と言えたヨハネの課題は解決し、
広がっていく人々との交流と故郷への定住を予感させる描写でもって話は終わった。
1話にして完結しており、同時に作品全体も内包しているであろう構成と完成度に驚くばかりである。
正直に言うと、今後の魔法とバトルのファンタジー展開に不安は大きい。
しかしそれによって作品が評価を落としたとしても、この1話の感動は揺るがないだろう。