なろう小説の主流であり、アニメ化などメディアミックスされた際も高確率で大ヒットするジャンル、それが異世界転生ものである。
実はそれがとある系譜に連なった上で登場したのではないかと仮説を立てて考えてみた。
異世界転生ものの主人公と言えば、元いた世界で事故や事件に遭って命を失うことが転生の契機となっている。
そこで主人公が過ごした時間と空間が一旦リセットされる。
ここでブームになったジャンルの歴史を振り返ってみると、異世界転生ものの前に流行したのがタイムリープ(タイムトリップ)ものだ。
これは主人公の時間をリセットする仕掛けがある。
このジャンルの変遷から考えると、時間をリセットに更に空間のリセットが加わったことになる。
より真っ白でより純粋な意味での"漂白"された物語の開始だ。
そこに時間や空間を一新して"自分"から物語を始めたいと望む読者の傾向が読み取れるかもしれない。
現実世界に残した自分の軌跡や人間関係から解放されたのはいいが、その代わりに得た新たに臨む世界は未知に満ちていて、
何も持たない者を恐怖で怖気づかせてしまうものだ。
そこで作者は主人公に、タイムリープものでは記憶を、異世界転生ものでは元の世界での知識という武器を授けた。
新たな世界に「出生」したのではなく攻略する武器を携え「転生」するのである。
そのような現実からの逃避と新たな世界へ万全な装備で挑む作品を望んでいるなろう読者は、少し狡いのではないかと考えた次第である。