よりマイナーな配信媒体に移りアングラ感が増した『立花日菜のラジオのひな形』の第7回で、
これまで以上に深く彼女の精神遍歴を聴くことが出来た。
筆者の引用も尺の都合上一部に留めており、彼女の内面を知ろうとするファンには是非とも全編を聴いて貰いたい回だ。
全ての始まりは自己肯定感を持てないと悩むリスナーからのメールだ。
まずは冒頭で、時折ファンから自己肯定感が高いと見られてしまうことに対して彼女は否定する。
昔からラジオを聴いてくれてる人は知ってると思うけど、
本当に陰キャの、自分に自信が無い極みの人間だと自分で思ってるから。
表面上のパフォーマンスや言動だけを見て立花日菜の理想像を作り上げて崇めるファンは、
ニワカの誹りは免れないだろう。
彼女がコミュ障で怠惰で自己中心的なおおよそ人間の負の性質を掻き集めた存在だと理解するには、
これまでの膨大なラジオの予習が必要で、そのせいで新旧のファンに分断が生まれるのは不幸なことかもしれない。
本当の自分だけを見てくれる者を選別すべくファンを篩にかけた後に、
本題に入って悩めるリスナーに彼女は答える。
自己肯定感を上げるには、私がやってる方法だけどマジで諦めてる。
もう自分は糞みてーな人間だから、糞だわって思ってる。
手法としてはそれこそヤケクソでネガティブなものだが、そこには新たに踏み出されるであろう力強い歩みへの期待がある。
続く自己分析でコンプレックスが語られていく。
自分が良い人になろうとすると良い人じゃないからしんどくなっちゃう。
私は全然マジで良い人じゃないし、性格良いか悪いかで言ったら
マジで性格が悪くって、性根が本当に腐ってるんですよ。
それを自分で分かってるから、身近にいる友達とか本当に人が良い人に出会うと
なんで私ってこういう風に出来ないんだろって思っちゃうのね。
それで凄い嫌いになっちゃうの自分のことが。
その後悔は、自己の確立を成せずに自他が求める自分の虚像に振り回されていたであろう青春時代を想像させる。
そして果てのない迷いの末に結論に辿り着く。
でもなんか、それめっちゃ意味無いなって何年かお仕事させてもらって気付いて。
(中略)
実際自分のこと評価してんのって自分だけなんだよね。
漸く自分に立ち戻る境地に至ったわけだ。
自分が世界の始まりだとする悟りとは違って、
他者への反発を含むエゴイストの開き直りのように見えるが、
過程はどうあれ結論が同じならそこは彼女を評価しても良いのだろう。
一度心を焦土にして人との交流を求める姿勢に成長を感じるが、
その前にこれまで抱いてきた人間関係の考え方を彼女は披瀝する。
私は結構上とか下とか考えちゃうタイプの人間だから、
上とか下とか考えちゃった時に優先順位とか付けちゃうと難しい…な。
自分が本当に良くないんだな、自分の優先順位ってみんなの中で凄く低いんだなって思っちゃうこともあるのよ。
彼女にも、あらゆる人間に適用されて序列化してしまう一律の基準を疑わない青春時代があったのだ。
それは下の立場だと屈辱を覚えさせ、上にも立てない絶望をもたらす若者の焦燥感を駆り立てる幻想だ。
しかし彼女も20代半ばにしてやっとその幻想から抜け出しつつある。
でも優先順位が多分相手の中にあるわけじゃないのはなんとなく生きてから分かるけど、
どうしてもそれを感じてしまうみたいなことあるから、だから諦める!
自分が自分のこと必要としてあげないとさ、人間は一人では生きていけないけど
結局一人で生きているから自分が(自分を)必要としてあげないと誰も幸せになれないなって。
他者との比較を免れない人間同士の偏差値を競う者が資格を持つのではなくて、
ただの存在としてだけでも他者と対等に付き合えると気付いたのである。
それは優劣を感じずに、相性を求めて人間関係を遊泳する境地である。
但しゼロから踏み出す一歩から人間的に成長するのか、或いは人間関係の構築テクニックの蓄積に終始するのかで
大きく彼女の人生は分岐することも忘れてはならない。
ゼロ地点からの始まりにおいては心境と技術は一致して見えるので、
ここで楽観視して彼女の人生が好転したと言うつもりはない。
しかし彼女が否応なく人間関係に巻き込まれて、自分に占める他人の割合が増えていくのは悪いことではない。
彼女が頼りなく間違いやすい人間ならば、他者からの影響と助力でもって正されればいいからだ。
他者の存在は、彼女の独善を打ち壊す可能性を持っている。
最後は、自己肯定感を得た彼女が現在進行形で他の声優と交流していく様を綴ってこの記事を終えたい。
何年か声優さんをやらせてもらっていろんな人と関わるようになって、本当にみんな人望が厚くて。
でも喋りかけなかったら興味を持って貰えないし、
でも好きで仲良くなりたいから「好きなんです」「仲良くなりたいんです」って言ってたら、こっちにも興味を持って貰えるかも。
興味を持って貰うには興味を持つことが大事だなって凄い思います。
これ、お母さんの受け売りなんだけど、それを凄くこの年になって感じました。